芥川龍之介「羅生門」のテストの過去問や予想問題を紹介していきます。本文は解答に必要な部分のみ掲載していきます。「内容説明問題の解き方」を読んでおくと理解がスムーズです。テストまで時間がない人は答えだけ暗記するのもいいでしょう。
ふだんなら、もちろん、主人の家へ帰るべきはずである。ところがその主人からは、四、五日前に暇を出された。前にも書いたように、当時京都の町はひととおりならず衰微していた。今この下人が、永年、使われていた主人から、暇を出されたのも、実はこの衰微の小さな余波にほかならない。
問:「この衰微の小さな余波」とあるがこれはどのようなことをいっているのか。
どうにもならないことを、どうにかするためには、手段を選んでいるいとまはない。選んでいれば、築土の下か、道端の土の上で、飢え死にをするばかりである。そうして、この門の上へ持って来て、犬のように捨てられてしまうばかりである。選ばないとすれば──下人の考えは、何度も同じ道を低徊したあげくに、やっとこの局所へ逢着した。しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。下人は、手段を選ばないということを肯定しながらも、この「すれば」の片をつけるために、当然、その後に来たるべき「盗人になるよりほかに仕方がない。」ということを、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。
問:「この局所へ逢着した」とあるが、どういうことか説明しなさい。
下人には、もちろん、なぜ老婆が死人の髪の毛を抜くかわからなかった。したがって、合理的には、それを善悪のいずれに片づけてよいか知らなかった。しかし下人にとっては、この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髪の毛を抜くということが、それだけで既に許すべからざる悪であった。もちろん、下人は、さっきまで、自分が、盗人になる気でいたことなぞは、とうに忘れているのである。
問:「さっきまで、〜のである。」とあるが、それはなぜか。
これを見ると、下人は初めて明白に、この老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されているということを意識した。そうしてこの意識は、今までけわしく燃えていた憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった。
問:「憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった。」とあるが、それはなぜか。
「きっと、そうか。」
老婆の話が終わると、下人はあざけるような声で念を押した。そうして、一足前へ出ると、不意に右の手をにきびから離して、老婆の襟上をつかみながら、かみつくようにこう言った。
「では、おれが引剥をしようと恨むまいな。おれもそうしなければ、飢え死にをする体なのだ。」
下人は、すばやく、老婆の着物を剥ぎ取った。それから、足にしがみつこうとする老婆を、手荒く死骸の上へ蹴倒した。はしごの口までは、僅かに五歩を数えるばかりである。下人は、剥ぎ取った檜皮色の着物を脇に抱えて、またたく間に急なはしごを夜の底へ駆け下りた。
問:「あざけるような」とあるが、これには下人のどのような気持ちが込められているか。